Q.1 遺伝子組換え食品を食べると、食べた本人や子供に何か悪い影響が及ぶことはありませんか。
質問分類 1.遺伝子組換え食品の健康への影響について
質問 Q.1 遺伝子組換え食品を食べると、食べた本人や子供に何か悪い影響が及ぶことはありませんか。
回答  この質問の中身は、いくつかに分けて考えるとわかりやすくなるでしょう。
 まず食品はもともと動物性も植物性も、基本的に細胞、あるいは細胞が作った繊維などから出来ていて、我々はそれを食べていることになります。遺伝子組換え食品が他の食品と違う点は、もともと数万種類の遺伝子を含んでいる細胞の染色体に、特定の外来遺伝子が組み込まれている点です。したがってここの質問は、その外来遺伝子(正体はDNA)、あるいはその遺伝子の産物であるタンパク質が、その食品を食べた人かその子供に何か良くない影響を及ぼすかどうか、ということになります。
 まず食品中のタンパク質は、胃や小腸で分解されてペプチドとなり、その多くはアミノ酸あるいはアミノ酸がいくつか繋がったオリゴペプチドにまで分解されて小腸の上皮細胞に吸収され、最終的にはアミノ酸として毛細血管(門脈)に入るとされています。DNAの方はヌクレオチド、さらにはリン酸が取れたヌクレオシド、あるいはそれが糖と核酸塩基にまで分解されて吸収されるとされます。本来の機能を保持したまま遺伝子やタンパク質分子が体内に入ることは新生児(初乳から母体の免疫グロブリンを獲得する)や一部の老人、病人の例をのぞき通常ありませんが、「食べるワクチン」や食物アレルギーなどは、タンパク質の部分分解物が生体に好ましい反応あるいは好ましくない反応を起こす特殊例です。いずれにしてもこの消化吸収の段階で、遺伝子組換え食品と非組換え食品とで性質に差は有りません。なお遺伝子組み換え食品では、食物アレルギーなどを有意な頻度で引き起こさないことを確認した上で市場化されますが、一般の食品では必ずしも検討された上で市場化されているとは限りません。
 次に、遺伝子組換え食品を食べた場合に、食べた人の染色体あるいはその子供の染色体に、組換えDNAが組み込まれて何らかの悪影響を及ぼすかどうかの疑問です。そもそも染色体に特定のDNAを組み込ませるには極めて特殊な条件が必要で、通常の細胞にDNAを与えてもそのまま染色体に取り込まれることはまず考えられません。また食物由来のDNAとつねに接している小腸の上皮系では、微絨毛を構成する細胞の寿命が24時間と極めて短寿命で、次から次に生まれては剥がれていきます。その意味でもそこの染色体に食物由来の遺伝子が入ることは考えられません。通常の食事をしていると、我々の消化管は日々大量のDNAに接しているわけですが、実際に、食品を構成する動物、植物、微生物の遺伝子が我々の染色体に取り込まれた例は今まで知られていません。遺伝子組み換え食品もそれと同様で、それを食べたとしてもその組換え遺伝子だけがとくに我々の染色体に取り込まれる理由はありません。
 ところで、我々の子孫に遺伝的性質が伝わるためには、その遺伝子が生殖系列に安定に組み込まれている必要があります。上に述べたように、我々の身体(体細胞)ですら、染色体に外来の遺伝子が組み込まれることは考えられませんが、その考えられないことが、精巣や卵巣の生殖細胞に至ってその中で起こり、最終的に精子や卵の染色体に安定に組み込まれることはさらに考えられません。
 以上のことから、遺伝子組換え食品を食べると自分あるいは子供になにか悪い影響が及ぶのではないかという心配は、根拠がありません。重金属や化学物質による食物汚染では、食物連鎖による濃縮や、摂取した当人よりも子供に重篤な影響の現れるケースが知られています。遺伝子組換え食品の子孫への影響を心配する背景には、遺伝子という言葉上の連想から後代への影響を心配してしまうということのほか、化学的汚染物質が後代へ影響を及ぼしうるということからの連想があるのかもしれませんが、これらは遺伝子組換え技術とは何の関係もないことです。