Q.29 遺伝子組換え体が近縁種と交雑することによって、遺伝子汚染が進む可能性はあるのですか。 | |
質問分類 | 10.遺伝子組換え作物と近縁種との交雑について |
質問 | Q.29 遺伝子組換え体が近縁種と交雑することによって、遺伝子汚染が進む可能性はあるのですか。 |
回答 | 【解説】 遺伝子組換え体と近縁種との花粉の流動による交雑可能性はナタネ、ダイズなどで指摘されています(Q.30)。遺伝子汚染(遺伝子拡散)の程度は、交雑種の生態系への適応度(生存に有利か)により決定されます1)。 【Answer】 ○遺伝子組換え体の近縁種との交雑性 Q.30で指摘しているように、遺伝子組換え体と近縁種との交雑は、交雑可能な条件が揃えば一定の割合で起こると考えられます。しかし、交雑が起これば、必ずしも遺伝子の拡散(汚染)が起こるとは断定できず、導入遺伝子が拡散していくか否かは、交雑種の生態系への適応度により決定されると考えられます。 ○遺伝子組換え体の適応度について 仮に交雑によって近縁野生種への遺伝子流動が起こったとしても、導入遺伝子を持つ個体の適応度が低ければ、導入遺伝子は淘汰され、野生集団から取り除かれてしまうはずです。 除草剤耐性や病害虫抵抗性を例にとれば、除草剤耐性や病虫害抵抗性の獲得による適応度の低下(抵抗性のコスト)は、一般にゼロかわずかに正です。トリアジン系の除草剤耐性ではコストはわずかに正、除草剤スルホニルウレア耐性ではコストがゼロとなっています。 コストが正であれば導入遺伝子は長期的には取り除かれ、コストがゼロ、つまり導入遺伝子自身は適応度に影響を与えないとすると、導入遺伝子は中立な遺伝子としてふるまい、その拡散は交雑の確率と遺伝的浮動※に従います。したがって、いったん交雑が起こると、導入遺伝子は論理的には長い年月の間に絶滅か安定維持かのどちらかが二者択一的に起こります。 上記の議論は交雑が一回だけ起こった場合を想定していますが、継続的な栽培の場合は野外に新しい遺伝子を供給し続けることになるので、この場合は、常に一定の割合で人為的遺伝子をもった個体が存在することになると考えられます。よって、個々の遺伝子組換え体の特性に応じた評価が必要だと考えられます2)、3)。 ※遺伝的浮動:集団における遺伝子の割合が偶然的に変動すること。淘汰圧(Q.32)とは正反対の概念です。 ○遺伝子汚染の可能性について 以上のように、一般に人為的に選抜された栽培種を自然環境下で野生種と競争させても、競争に負けて淘汰されることが多く、懸念されているような遺伝子汚染が常に起こるとは考えられません4),5)。しかし、遺伝子組換え体が近縁種と交雑して、交雑種の適応度が増加し、遺伝子汚染を引き起こす、といった一連のプロセスはありえます。このようなプロセスをたどる可能性のある遺伝子組換え体を事前にチェックし、環境への放出を防ぐことが重要です。現在、農林水産省を中心に、遺伝子組換え体の環境安全性について、このような長期的視点を加えた形での安全性評価指針について検討する動きがあります。遺伝子汚染を事前に回避するためには、長期的な管理とモニタリングが必要でしょう。 【参考文献】 1)佐野浩 監修、「遺伝子組換え植物の光と影?」(学会出版センター) 2)ジェーン・リスラーら、「遺伝子組換え作物と環境への危機」(合同出版) 3)den Nijsら, Introgression from Genetically Modified Plants into Wild Relatives. CAB International, Wallingford, UK, 2004. 4)National Research Council, Environmental Effects of Transgenic Plants, National Academy Press, 2002. 5)Halford, N. G. Chapter 5 Issues that have Arisen in the GM crop and Food Debate. Genetically Modified Crops. Imperial Colledge Press, 2003. |