Q.36 ウイルス抵抗性の遺伝子組換え作物の利用により、新たなウイルス系統が出現する可能性やウイルスの宿主範囲(感染する生物)が拡大する可能性はあるのですか。 | |
質問分類 | 11.遺伝子組換え作物のその他の環境への影響について |
質問 | Q.36 ウイルス抵抗性の遺伝子組換え作物の利用により、新たなウイルス系統が出現する可能性やウイルスの宿主範囲(感染する生物)が拡大する可能性はあるのですか。 |
回答 | 【解説】 ウイルスの外被タンパク遺伝子を植物ゲノムに導入して、ウイルス抵抗性を付与した遺伝子組換え植物を栽培した場合にウイルスの感染を受けると、感染したウイルスゲノムと植物ゲノム中のウイルス由来外被タンパク遺伝子との組換えによって新たなウイルス系統が出現する可能性1),2)や、トランスキャプシデーション(transcapsidation:ある種のウイルスの外被タンパク質の中に他のウイルス種のゲノムが入り込み、雑種ウイルスを形成すること)によりウイルスの宿主範囲が拡大する可能性3),4)が指摘されています。これらは主として植物に病原性をもつRNAウイルスについて問題とされています5)。 【Answer】 ○遺伝子組換え体のウイルス由来遺伝子と外来ウイルスのゲノムの組換えの可能性 ウイルス抵抗性植物を広範囲に栽培すれば、圃場のすべての遺伝子組換え植物が一様にウイルスがもっていたDNAを産生するため、ウイルス由来の導入遺伝子RNAと、それに関係しないウイルスのRNAとの組換えは従来よりも高頻度で発生する可能性があります。 しかし、自然界で起こる混合感染、RNA配列などについての実験によれば、このような組換えにより、宿主域や病毒力が変化した活性のあるウイルスが生じる可能性は低いと考えられます。ウイルス抵抗性の遺伝子組換え植物はウイルス感染を受けにくいため、導入遺伝子が由来するウイルス、あるいは近縁ウイルスのRNAとの組換え頻度は実際には低くなると期待されます。 ○トランスキャプシデーションの可能性 遺伝子組換え作物中の導入遺伝子に由来する外被タンパク質の濃度は、自然にウイルス感染を受けた植物中の濃度よりも低いため、遺伝子導入作物の栽培におけるリスクは、自然の混合感染によるトランスキャプシデーションに伴うリスクと比較して低いと考えることができます。 また、トランスキャプシデーションでは、一時的に他のウイルスの外被タンパク質が利用されるものの、外被タンパク質に包まれたウイルスのゲノム自体は変化しません。したがって、トランスキャプシデーションは一過性の現象であり、長期的なリスクはほとんどないと考えられます6)。 これらについては、随時国際学会や専門ジャーナルでも確認されています7),8) 。 ○結論 以上のことから、上記2つの現象は基本的には天然で起こっているウイルスの混合感染と同様に考えることができます。ただし、これらの現象は低い頻度であっても一定の確率で起こり得るので、遺伝子組換え植物を大規模に栽培する場合は、管理とモニタリングを充分に行い、耐性付与という農業上のメリットとのリスクベネフィットを考慮していくことが重要です。 【参考文献】 1)A. E. Greeneら、Science, Vol.263, 1423-1425, 1994 2)B. W. Falkら、Science, Vol.263, 1395-1396, 1994 3)H. Lecoqら、Molecular Plant-Microbe Interaction, 3, 403-406, 1993 4)M. Tepferら、Biotechnology, 11, 1125-1132, 1993 5)ジェーン・リスラーら、「遺伝子組換え作物と環境への危機」(合同出版) 6)American Institute of Biological Sciences (AIBS)「Transgenic Virus-resistant Plants and New Plant Viruses」August 1995 7)http://www.isbr.info/ 8)Environmental Biosafety Research (EBR journal) |