Q.41 多種類の遺伝子組換え微生物が環境中に生息するようになると、系統分類学が混乱することはないのですか。
質問分類 12.遺伝子組換え生物と生物多様性との関係
質問 Q.41 多種類の遺伝子組換え微生物が環境中に生息するようになると、系統分類学が混乱することはないのですか。
回答  細菌は、生物の進化に沿っての分類を行う自然系統分類を目標として分類されています。70年代になり遺伝子の解析が進み、遺伝子の塩基配列を比較することにより自然系統分類への道が開かれました。90年代の終わりには16SrDNAの塩基配列のデータが蓄積され、このデータに基づき5000種にもおよぶ細菌種の系統を一目で示すことができるようになりました。16SrDNAは全生物(真核生物では18SrDNA)が共通して持っており、その進化速度が比較的鈍く、系統のかけ離れた生物間での比較も容易にできます。ある菌の分類学的位置を決定するには、16SrDNA塩基配列を決めて系統解析を行い、その菌がどの属に所属しているか、あるいは系統的にどの菌と類縁関係にあるかを推定します。70%以上のハイブリッドを形成する株を同一菌種として定義しています。属内の菌種の確定にはDNA竏窒cNA相同性試験を行い菌種の異同を確定します。16SrDNAはひとつの属の中の菌種では類似度が高く、菌種を識別できないことがあるからです。最近はより変化のあるハウスキーピング遺伝子配列のデータが蓄積し、配列で類縁の菌種を識別同定できるようになりつつあります。微生物に有用な機能を付加するために行う遺伝子組換えは、通常プラスミドやファージ等を用いて行っており16SrDNAの塩基配列には影響しません。したがって、遺伝子組換えにより、組換え前の分類学上の位置と異なってしまうことはありません。細菌では70%以上のハイブリッドを形成する株の集団を同一菌種と定義しているので1個の遺伝子(約千塩基)が組み換えられたとしても全染色体の1%にも満たない変化に過ぎないので組換え体がもとの種の定義からはみ出すことはありません。
 なお、種を超えた遺伝子の組換えは自然界では決して珍しいことではありません。細菌同士の間での遺伝子の水平伝達は広く見られます。また、細菌の遺伝子が植物に移行することもあります。植物の遺伝子組換え技術のきっかけとなったアグロバクテリアは植物にクラウンゴールと呼ばれるこぶをつくりますが、これはバクテリアから植物へ遺伝子が移行することによる現象です。

(参考文献)
・吉田真一 医学細菌の分類・命名の情報11、系統樹から系統地図へ
 感染症学雑誌 第76巻 第5号 337頁
・河村好章 医学細菌の分類・命名の情報9、分類・同定に有用な適用方法とその範囲
 感染症学雑誌 第75巻 第12号 1003頁