Q.53 「遺伝」は親の性質が子やそれ以後の世代に伝わる現象ということですが、「遺伝子」の変化・細胞間の受け渡しと親子間の「遺伝」との関係はどうなっているのですか。
質問分類 15.その他
質問 Q.53 「遺伝」は親の性質が子やそれ以後の世代に伝わる現象ということですが、「遺伝子」の変化・細胞間の受け渡しと親子間の「遺伝」との関係はどうなっているのですか。
回答  「遺伝」では、親子間の個体レベルの遺伝現象と、細胞レベルの遺伝現象の違いを認識することが最初に重要です。個体の遺伝的形質を決める因子を遺伝子と呼び、メンデルの法則に従って遺伝子は子孫に受け継がれ、その子孫の形質を決定します。そしてそういう遺伝子の正体はDNAだと説明されます。遺伝子は正確に複製されるとともに発現して特定のタンパク質を合成し、これが細胞の性質を決め、最終的に身体を決定していきます。しかしこの説明には重大な飛躍があります。確かに遺伝子はDNAであって、その細胞の性質を決めますが、この同じ遺伝子そのものが子孫の性質を決めるわけではありません。
 人の身体は1個の受精卵から始まります。これが2個、4個、8個と分裂してゆき、途中から個々の細胞の性質に変化が生まれ、細胞間で様々な相互作用が行われ、分裂のタイミングに違いが生じながらも分裂を繰り返し、場合によっては一部の細胞が死滅して消化されたりしながら、最終的に数十兆の細胞からなる身体ができあがります。こういう過程を発生・分化・成長と言います。この過程はすべて、遺伝的なプログラムに従い環境に応答しながら(その応答の仕方もほぼ遺伝的に決まっている)行われます。しかし、こうやって生じた身体のほとんどの細胞と、その中の遺伝子はその代限りのものです。分化、成長の過程で生ずる遺伝子の変異はほとんどが修復され、ごく一部が修復されきらずに異常として残り、ガンなどの病気を引き起こすことがあります。しかし、こういう遺伝子の変異は子供に遺伝しません。
 受精卵からの発生のかなり初期に、一部の細胞は遺伝子のフルセット(ゲノムとも言う)を次の世代へ伝える生殖細胞となって身体の一部に保存され、残りの細胞が体細胞として、身体のほとんどを形成していきます。成長がある段階になると生殖細胞が独特の分化を遂げて卵や精子(配偶子)を形成し、これらが別の個体由来の配偶子と受精して次の世代の個体を作っていきます。従って、次の世代に遺伝子が伝わるためには、それがこういう生殖系列に組み込まれていなければなりません。つまり新たな外来遺伝子が次の世代に伝わるためには、この生殖系列のゲノムに入ることが必須です。
 遺伝子組換え体であるトランスジェニック動物・植物を作製する場合でも、受精卵や胚に外来遺伝子を導入して、それが染色体に組み込まれているクローンを選択しても、組み込まれる時点で既に受精卵の細胞分裂が進んでいるので、一般には外来遺伝子を持つ細胞と持たない細胞のモザイクになっており、それが生殖系列に入っている保証はありません。
 その次の世代までその遺伝子が伝わることを確認してはじめて、組換え体として新しい系統が樹立できたことになります。