Q.40 ターミネーター技術とは何ですか?種子を不稔にする技術であれば、遺伝子の環境汚染の問題がなくなるのではないですか。
質問分類 12.遺伝子組換え生物と生物多様性との関係
質問 Q.40 ターミネーター技術とは何ですか?種子を不稔にする技術であれば、遺伝子の環境汚染の問題がなくなるのではないですか。
回答  作物の種を自家採取し、翌年栽培するのが古くからの農業の伝統的な方法でした。しかし、現在先進国では、自家採取の手間や発芽率などの品質管理を省くことによる種苗会社からの購入やF1 雑種種子など自家採取ではできない品種の利用をするため、自家採取は殆ど行われていません。特に、自家採取は、病気や害虫の伝搬を促進する可能性があるため、品質や防疫管理に優れた種苗会社からの種子の購入が、大規模栽培において生産を保証するために重要な要件です。
 F1雑種は、特定の親の組合わせによりできた後代(子供)が多収性であったり早生であったり、大規模栽培で必要な均一性が高かったりする理由で、先進国の商業栽培に利用されています。一方、F1 個体から採取した後代種子(F2)は、F1個体より生産性が落ちるなどの遺伝的特性があります。よって、種子は、栽培を行う度に種苗会社から購入する必要があります。トウモロコシ、野菜や1年生の花の多くの品種はF1雑種で、これら産物は古くから日本でも利用されています。F1 の親系統やこれらの組合わせは、種苗法で保護されており、場合によってはその他知的財産権が保護されている産業資源です。F1品種に限らず、多くの現代品種は、種苗法等によって権利が保護されており、かってに種子の増殖、販売及び利用はできないことになっています。
 発展途上国の大多数の農家は、零細で自給自足です。穀物や野菜の種子についても、自家採取を行っています。一方、良い品種があれば、お金を出してでも、種子を手にいれようとするのが農家の世界共通の考え方です。しかし、貧しい自給自足の農家では、優良な品種の高品質種子を購入する経済力は往々にしてありません。そこで、種苗法や工業所有権法で保護されている品種にもかかわらず、多くの品種が、違法に自家採取されることになります。
 このような背景で、種子の次世代栽培ができなくなる技術であるGURT (Genetic Use Restriction Technology)、一般的には、NGOがターミネーター技術と呼称している一連の技術が、米国USDAとDelta & Pine社の共同開発で1990年代前半に考案されました。当該技術は、品種権の意図的保護や独占だけでなく、遺伝子組換え品種の意図しない拡散や生殖質浸透(種子や花粉の拡散と交雑)を妨げる効果があります。したがって、ターミネーター技術を使えば、医薬品を生産する組換え植物が、食用の近縁種と交雑しないように遺伝子の拡散を防ぐことができるという利点があります。今後、様々な組換え体が実用化されるにともなって、遺伝子拡散を防止できるターミネーター技術へのニーズも高まると考えられます。
 しかし、GURTによって作られた品種により栽培された作物から得られた種子は発芽しないため、もし発展途上国の零細農家がこのような品種種子を大量に入手すると、作物生産が不可能となり、飢餓や貧困を助長するのではないかという心配が大きくあげられています。これは、発展途上国のみならず、先進国でも食糧保障に繋がる大問題です。沢山の食用の穀物は、当然食糧として保存されますが、一方これらは、種子として次世代の作物を生産することもできます。このようなオプションをなくすGURTは、国家的食糧保障や世界的な食糧供給に大きな影響を及ぼすのではないかとの懸念があります。GURTの情報が公開されたときから、FAOや生物多様性条約事務局は、当該技術の利用による遺伝子組換え体の作成と遺伝子拡散の制御について検討してきています。また、開発者もリスクが大きいことを認めて、開発を凍結させています。

※不稔:次代の植物として生育しうる種子ができないこと。広い意味では、花ができなかったり、種子が発芽不能で次世代の植物ができない場合も含みます。ターミネータ技術は種子ができないので、不稔化技術の1つに該当します。